銅沼と爆裂火口壁

銅沼と馬蹄形カルデラ

磐梯山ジオパークの主要なジオサイトであるこの沼は、あかぬまと読ませる。

なぜ、この漢字を当てはめたのだろう。この沼は1888年の水蒸気噴火(※1)により、小磐梯が山体崩壊(※2)をした直後にできた。それは、バルトンという帝国大学のお抱え教師が残した写真から知ることができる(写真1)。現在その場所に立つと、沼の色は赤茶けて見えるが、その理由は、湖底に水酸化鉄を含む赤い泥がたまっているためである。この沼には鉄やアルミニウムやマンガンなどの金属イオンが大量に溶け込んでおり、強酸性(ph3)のため、魚類は生息していない。磐梯山の高い場所にある沼のため、水はここから北側の地下を通って、途中の裏磐梯スキー場の湧水ではph4となり、その後、緑沼を通り五色沼まで流れて行く。その間に水は濾過され、五色沼ではph6程度になり、魚類も生息できる水質となる。

銅沼が写っている噴火直後(写真1)銅沼が写っている噴火直後(W.K.Burton撮影)

この沼の前に立つと、正面に磐梯山の1888年噴火で出現した雄大な火口壁が迫ってくる(写真2)。壁面にいくつもの地層の重なりを見ることができるが、過去の磐梯山の噴火の歴史を伝える証拠である。上半分にはゆるく傾いた複数の線が見えるが、これは安山岩の溶岩と火山灰などとの境界を示す。岩石が角張って見える部分は溶岩である。

櫛ヶ峰の真下の岩石が白くなっているのは、マグマの熱で変質したからで、このような岩石はもろくなっている。1888年の噴火で小磐梯が崩れたのは、もともと地下にあったこの岩石の性質にもよる。

銅沼からの火口壁(写真2)銅沼からの火口壁

銅沼は冬になると凍結し、歩いて渡れるようになる。スノーシュー(洋風かんじき)などをはき1時間ほど歩くと、黄色に氷った滝にたどり着く(写真3)。これは磐梯山ジオパークならではの素晴らしい景色で、イエローフォールとよばれ、冬のジオツアーで人気を博している。

イエローフォール(写真3)イエローフォール

櫛ヶ峰から北側にかけての稜線の一部が窪んでいる所があるが、これは2011(平成23)年の東北地方太平洋沖地震で崩れたからである。ここ以外にも、2011年に崩落した場所がある。

火山活動でできたくぼ地で幅2kmより大きいものをカルデラと言うが、磐梯山の場合は北側が開いたU字形の状態のため、馬蹄形カルデラと呼ばれる(写真4)。

西側からの磐梯山の空撮(写真4)西側からの磐梯山の空撮(アジア航測株式会社)

※1 水蒸気噴火(爆発)・・・地下水がマグマにより熱せられて気化し、発生する噴火現象。以前は水蒸気爆発と言われた。
※2 山体崩壊・・・大規模火山などの脆弱な地質の山体の一部が、地震動や噴火などで大規模な崩壊を起こす現象。